定期健診について

中原区民のQOL向上のために(定期健診のすすめ)
WHO(世界保健機構)の定義にあるように、健康とは「身体的・精神的・社会的に良好な状態」を言い、この概念に基づき単に身体的な健康のみでなく、高い 生活の質(人生の質)すなわち「QOL=Quality Of Life:クオリティオブライフ」があってこそ真の健康と言えるでしょう。このQOLの向上に、健康な口腔機能の維持は欠かせないものとなっています。口 腔の2大疾患と言われるムシ歯や歯周病は歯の喪失原因の大半を占めています。ムシ歯や歯周病は感染症でありながら生活習慣病の性格が強い疾患です、これを 予防していくには患者さんの、長期にわたる定期的な来院が大前提となります。長い人生の中で生活の場が変化するにつれてライフスタイルも変化し同時に歯科 疾患に罹患するリスクの質や量も変化します。

乳幼児期 では生活のほとんどの場が家庭です。歯牙の萌出期にはムシ歯の原因菌の母子感染というリスクがあります。(2歳から4歳頃に保育者から感染することが明らかにされている。このため保育者の口腔環境を改善することで感染率を下げることが可能である。)
次に離乳食の導入から断乳、普通食へのプロセスで食生活の急激な変化があります。ライフスタイルそのものが両親や兄弟、祖父母などの家族の構成員に大きく 左右されます。ムシ歯の発生も本人よりも、周りの人たちから大きな影響を受ける時期です。また定期的な来院も保護者の健康観や生活環境によって左右されま す。その結果ムシ歯のリスクは大きく変動します。

学童期 になると家庭に加え学校とサークル活動、塾などが加わり、家族だけでなく学校の環境や友人から の影響も見逃せません。生え変わりの時期の永久歯のムシ歯が問題となり特に6歳頃に生えてくる第一大臼歯のリスクが高い時期です。生活の場も広がり自発的 で多彩な食行動が起こり始める時期でもあります。その結果好ましくない食品の摂取によりムシ歯のリスクは高まる危険があります。歯磨きに関しても適切な健 康教育と周りのサポートがあれば素直に受け入れ、上手に磨くことができる時期です。

中学、高校の時期 では、ますます学校とサークル活動、塾などが忙しくなり、予防のために定期的に受診することの 制約が増えます。こどもから大人への移行期であり、大人に反発すると共に自立心が芽生えてきます。自立心が旺盛な一方で、健康観や生活知識・技術が充分に 確立されていないアンバランスな状況がリスクを高めます。
飲食の頻度は、家庭環境など個人差が著しく中・高校生では、部活など体力の消耗が激しく、受験などのストレスもあって食生活は乱れがちでムシ歯のリスクが 高くなります。この時期には歯科診療室での健康教育やコミュニケーションのあり方がセルフケア能力の向上や、自発的な定期来院の習慣の確立に大きな影響を 与えます。

青年期 になると生活の場も一変し一人暮らしや寮生活など今まで育った環境と異なる場での暮らしが始ま ります。暮らしの変化と共に食生活が大きく乱れ、リスクが高まる可能性があります。青年期後期では就職や結婚などの人生の転機が訪れます。生活の場も再び 家庭が中心になりますが、職場やいろいろな場面での変化に富んだ生活環境が形成されます。環境の変化に対応し、新たにライフスタイルを確立する時期です。 成人のほとんどは会社に就職しその前半の時期には仕事を休んで定期健診に行く環境が整ってないようです。女性の場合は出産と子育てにより、自分の健康と子 供の健康の二つの荷物を抱える時期です。受療機会が少ない分、歯科診療所からプロケアや健康情報を得る場が乏しく新たなリスクが発生する可能性がありま す。

高齢期 になると仕事や育児も一段落して、自分の自由になる時間も増えてきます。しかし口腔内には加齢 的変化が現れてきます。歯肉の退縮による根面カリエスのリスクの増加、唾液腺の萎縮による唾液量の減少、口腔周囲の筋力の低下、ホルモンバランスの変化が あり、慢性疾患やその治療に用いる薬の副作用として、唾液の分泌障がいをもつ人が増えてきます。飲食の回数も増加します。

以上のように人生のあらゆるステージにムシ歯や歯周病のリスクが高まる可能性があります。すなわち一度口腔内を健全な状態に改善したとしても、それが長期 に安定する保証は今のところありません。各ライフステージの個々の状況に対応した、継続的な健康教育やプロケアなどのサポートが必要となります。長期にわ たるサポートの中でそれぞれのステージに必要なセルフケア能力を獲得してもらいます。そのプロセスでリスクが高い時期には厚めのプロケアを提供します。個 人のセルフケアの確立とそれをサポートするプロフェッショナルケアの両輪がうまくかみ合ってこそ健康な口腔の維持が可能となります。
中原区歯科医師会では区民の皆様と共に健康な口腔を維持していくことに努めていきたいと願っています。

参考文献・・・
「QOL向上のために歯科医療にできること」:花田 信弘
「明日からできる地域での予防歯科」:中村 譲治
「クリニカルカリオロジー」:熊谷 崇 他